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インフォメーション

2014

07/16

理事長コラム⑥

応援メッセージ

6月21日のボランティア体験デーにひとりの中学生がやってきた。

   実は、ふーどばんくOSAKAの食品提供先に母子生活支援施設があり、そこでもともと関係があった中学生が、体験と称してふーどばんくOSAKAの活動にボランティアで協力しようという試みである。

こういうと、「中学生によるボランティア体験か、」ということになるのだが、実はそう単純な話ではない。

この中学生は母子家庭で育ち、母子生活支援施設で生活した経験を持っている。現在は、施設を出て母親と暮らしているが、生活保護を受け、ほそぼそとした生活を送っているようであり、施設で働く人たちとの人間関係に居心地が良いのか、中学校へは不登校で、施設へちょくちょくやってくるという。本人は、もちろん高校への進学を希望しているようだが、夢と現実とのギャップに戸惑いを持ちながら多感な学生生活を送っているようである。

 施設の職員さんが、フードバンクの活動に接するようになったことがきっかけで、この中学生にもフードバンクの活動を経験させることが肝要だと思い、ふーどばんくOSAKAに相談があり、ボランティア体験のはこびとなったのである。

 生活保護世帯における家庭での生活ぶりは、食生活がつねに安定しているという状態とは言い難く、生活保護費受給日から遠のけば遠のくほど、食生活が不安定に陥ることは容易に想像がつくところである。この中学生の家庭もしかりであり、生活保護費の受給から日数が経過すればするほど、食生活が乱れ、きちっとした料理を口にすることが出来ないときがあり、心配した施設の職員さんが、ふーどばんくOSAKAから提供される食品で一時的な食生活の乱れを改善していたようである。

こうしたことがきっかけとなり、フードバンク活動を知った中学生は、関心を持つようになったようである。

 わたしは、部落解放運動の中で、「たったひとりに現れた差別の現実」というフレーズを頻繁に語ったり、方針として書いたりしてきた。それが、フードバンク活動という実践を通じて、現実のものとしてわたしの前に横たわってきたのである。不登校、食生活の乱れ、不規則な生活習慣などの課題が、たったひとりの中学生に現れている。「差別の現実ではないが、社会的排除の現実」である。この現実が、食品を提供したという一歩からスタートし、母子生活支援施設の方との人間関係を通じて課題に直面したのである。

 ここからは部落解放運動で培ってきた真骨頂である。寄って集ってこの中学生を徹底して支援できたらと思っている。むしろ部落解放運動の強みを生かせる分野でもあるからである。まずは、”ケース会議”をひらき、学業の機会をどう確保するか、食育の課題をどう安定させるために取り組んでいくか。不登校からどう脱却していくのか。そして、最後には母親の不安定な生活の改善を図り、働けるまでに伴走型の応援が出来るのか。教育、食育、福祉、労働、雇用という部落解放運動の横断的な課題が、たったひとりの中学生から見えてきた社会的排除の現実である。

 フードバンク活動を展開したからこそ見えてきた社会的排除の課題である。実践を通じてあらためて直面してきた課題といえる。まさに、”先ず隗(かい)より始めよ”だ。